韓ドラ界に、巻き起こるフュージョンブーム!
その裏に隠された、韓国格差社会の闇とは!?

 

韓国では、現在「フュージョン」を題材にしたドラマが流行っている。参考までに、フュージョンとは「もしも~だったら」などの、SFや空想の世界を描いたものである。既存の正統派ドラマと比べて、ファンタジーやタイムスリップなど、従来の文法を覆す画期的な設定として、現在の韓ドラ界において、なくてはならない題材である。

 

実はこのフュージョン、2011年頃までに『快刀ホン・ギルドン』(2008KBS)や『一枝梅』(2008SBS)など、試験的に放送はされてきたものの、「ホームドラマに慣れ親しんだ韓国」においては、やはりリスクを伴う題材として、製作者サイドでは、敬遠されてきた題材ではあったようだ。


 

しかしながら、2012年に放送された、『太陽を抱く月』(2012MBC)が、最高視聴率46.1%を記録したことを機に、これまでの定義は大きく覆され始めた。朝鮮王朝時代を背景に、架空の王様と巫女のファンタジーラブロマンスを描いた本作は、人気作家の同名小説が原作となっている。単なる純愛ものではなく、ミステリー要素も兼ね備えた深みのある展開が、若い視聴者を釘付けにして、離さなかったのだ。また、それだけでなく、キム・スヒョンやイム・シワンなど、今をときめく若手俳優を積極的に起用していたことも、このドラマが人気を得た大きな要因となっている。


 

この作品のヒットにより、フュージョン人気が証明され、製作者側は、次々とフュージョン作品の制作に取り組み始めた。その結果、フュージョンブームが到来し、『屋根部屋の皇太子』(2012SBS)、『九家の書』(2013MBC)、『夜警日誌』(2014MBC)、『輝くか狂うか』(2015MBC)など、今なお、毎年多くの「フュージョン」を題材にした作品が放送されている。

 

全盛期の2012年に至っては、同じ時期に同じ設定のドラマが、同時に放送されるという異例の事態まで起こるほど、絶大な人気を誇っていた。特に、フュージョンを題材にした「タイムスリップもの」は、一時期、異常なほど大流行し、お茶の間では、どのチャンネルを合わせても、タイムスリップものが流れるほど、異様な光景を見せていた。


 

しかしながら、このフュージョンブームの裏に、韓国社会の闇が投影されていたとは、一体誰が想像できただろうか。それは、既存の厳しい現実社会に疲れ果てた視聴者が、「現実の生活から抜け出し、空想の世界を体験したい」という、ある種の現実逃避的な考えにあった。


 

韓国は日本以上の格差社会である。「貧富の差」は日本と比べ物にならないほど大きく、今でも財閥を中心とした権力層が力を振るう一方で、一世帯あたりの借金の平均は5994万ウォン(約668万円)(2014年家計金融・福祉調査結果)と昨年以上の数字を示している。


 

「雇用の面」においても、20148月時点での非正規雇用者数は600万人を上回り、賃金労働者の約3分の一が非正規雇用社員となっている。雇用率の低さだけではなく、低賃金や不当解雇など、深刻な問題を抱えている。こういった問題に異を唱える形で、大企業の会社の前で、日夜デモ運動を繰り返し、野宿する非正規雇用者が、今でも後を絶たない状況だ。


 

「教育問題」に至っては、子供を一流大学に入れさせようと、中高生を毎日夜遅くまで塾に通わせたり、小学生が1日に3箇所も塾に通っている光景が日常茶飯事で見られている。そしてここでも、お金のある人は、たくさんの教育を受ける一方で、貧しい人は、教育の制限を受けるといった、「教育においての貧富の差」が生まれている。また、熾烈な受験戦争を勝ち抜いて、一流大学を卒業できたとしても、正規雇用者としての就職が決して保証されることなどなく、それどころか、むしろ、非正規雇用者として就職することが多いのが現状である。


 

このような、厳しい現実社会と向き合うことに疲れ果てた国民が、せめてドラマを見ている間だけでも、空想の世界に逃避したいと思うようになったわけだ。


 

フュージョン時代劇などを、モチーフとしたドラマが流行し、人気を呼ぶことは韓ドラ業界にとっては望ましいことだろう。しかし、その一方で、厳しい現実社会を受け入れることができず、フュージョンという架空の世界に逃避してしまうことは、決してぬか喜びできない状況と言えるのかもしれない。

 

 

(文=善韓流コトバライター平松相善)