この作品を一言で表現するなら、「自分と向き合うドラマ」という言葉がピッタリ当てはまるのではないだろうか。視聴者も劇中の登場人物たちも、全編通して時間をかけて、自分と向き合っていく。そんなドラマである。どういった点から、そのような解釈になるかは、後半に書かせて頂くとして、まずはこのドラマを、別の視点から覗いてみることにする。

 


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この『いとしのソヨン』は、『棚ぼたのあなた』と共通している点が非常に多い。

 

 

一つ目は、「マッチャンし過ぎていない(非日常的でない)現代のホームドラマ」という点だ。『棚ぼたのあなた』と同様に、出生の秘密や交通事故など、従来の韓ドラならではの手法が、物語の軸として展開されるわけではなく、あくまでも、物語をより「感情移入させるためのちょっとしたスパイス」として、使われている。

 

 

次に共通しているのが、「主人公の考え方やライフスタイルの変化」だ。両作品とも、物語のスタート時には、主人公の価値観や考え方が非常に愚かで偏っている。しかし、様々な対人関係を通して、自らの考え方が愚かであったことに自然と気付いていくのである。その感情の移り変わりは、決して強制的でなく、極めて自然に「本来あるべきカタチ」に戻され、主人公は本当の幸せを手に入れる。そして、見終わった後に、自然と心が洗われるのである。

 

 

そして最後が、両作品とも「国民的ドラマとして大ヒット」を飛ばしているという点。『棚ぼたのあなた』は、「大家族を軸にコメディタッチで描かれる物語」。これに対して、『いとしのソヨン』は、「シリアス要素満載が満載な物語」が展開される。両作品とも、共通点がありながらも、対照的なお話。それにも関わらず、国民的ドラマとして、大ヒットとなった。そして面白いことに、平均視聴率まで僅差で並んでいる。(『いとしのソヨン』35.8%、『棚ぼたのあなた』35.7%)

 

 

このことは、「韓国人がドラマに対する受容範囲が広い」ことをと証明しているのかも知れない。

 

 

一方で、この作品ならではの「学び」として「自分と向き合うことの大切さ」を教えてくれている。人は自分の思い通りにはならない。相手が解決するべき課題に対しては、自分が介入することではないし、自分の課題に対しても、相手を介入させてはならない。なぜならば、「相手や自分の自由を奪う」ことになるからだ。大切なのは、「相手を見守り、自分の課題と向き合うこと」ではないだろうか。

 

 

この作品の登場人物たちも、みなそれぞれが「課題と向き合って時間をかけて自立」していく。本作の脚本家が伝えたかった一番のポイントは、恐らくこの部分ではないだろうか。その様子がしっかりと描かれているからこそ、視聴者も自分と向き合いながら、物語を擬似体験できるのである。

 

また、「同様の体験で、初めて相手を理解」という学びが入っている。相手と同様の体験をしない限りは、相手の気持ちを図ることなど出来ない。仮に、同じ体験をせず、相手の気持ちが分かるとすれば、それは嘘や偽りでしかないと気付かされる。

 

 

さて、本作品は、日々の生活の中で変化していく人間の心境を実に繊細に、そして赤裸々にさらけ出している。この辺り、脚本家が計算をして、視聴者の感情をコントロールしているとすれば、それはもう神業に近いレベルと言えるかもしれない。本作品を担当したソ・ヒョンギョン脚本家。本作品以外でも、『華麗なる遺産』や『私の期限は49日』、そして最新作『TWO WEEKS』を生み出した、言わずと知れたヒットメーカーである。どの作品も、一筋縄では行かない展開だけでなく、登場人物たちが物語を通して、価値観を軌道修正させていく様子の描き方は、他を圧倒していると。

 

韓ドラを見ていて、いつも思うことがある。人間の心境の変化を、赤裸々にさらけ出しているにも関わらず、素直に共感できる視聴者がいることに嬉しくなってしまう。登場人物たちの心の変化を包み隠さず、ありのままに表現したドラマを受け入れることは、素晴らしいことだと思う。そんな時、韓ドラのレベルの高さを実感させられてしまう。そこには決して、「演技の上手さや物語の秀逸さだけではない何か」があるように感じてならない。その何かとは、国の文化や道徳的な思想が関係しているのだろう。

 

韓ドラから学ぶべきことや見習うべきことは、本当に多い。心が洗われるコトバの数々。そこには、韓国人が古くから育ててきた韓国の歴史や生活習慣だけでなく、これからの時代を生き抜く知恵が詰まっている。そんな人生の指標ともなるべき、韓ドラを観たことがない人は多いことは、非常にもったいないことだといつも思う。韓ドラこそ、人生の特効薬、いや時に劇薬となるのではないだろうか。そんな韓ドラに未来すら感じてしまう。韓ドラ界は、現在、氷河期を迎えている。しかし、たとえ時代は変わっても、韓ドラの良い部分は失くさず、守り続けてほしいと切に願うばかりである。と同時に、これからも、ジャンルを問わず、面白くて、どこにも真似できない作品にチャレンジしてほしい。

 

 

最後に、登場人物たちの心に残る名ゼリフをご紹介させて頂く。

 

 

「ぜんまいさえ回せば、一生動く時計です。一生、同じ時間を共有して下さい。」(イ・ソヨン)

 

 

解説:ある夫婦の結婚祝いとして、ソヨン(主人公)が夫婦それぞれに、ぜんまい式の腕時計をプレゼント。そこに書かれてあったメッセージカードが、この言葉。同じ時間を共有するもしないも、それは2人の意思次第。お互い譲り合いながら、これからも幸せな家庭を築いてほしい。そんな意味が込められている。

 

 

「自立は一人で暮らすこととは違う。人と共存しつつ、独立すること」(イ・サンウ)

 

 

解説:ソヨンが自ら犯した罪に対して、周りに謝ってばかりいるのを見かねた弟サンウが話した言葉。自らが傷つくことを恐れるがあまり、バリアを張っているソヨンに対して、いつまでも罪悪感にさいなまれていないで、自分と向き合って、自立してほしい。そんな意味が込められている。まさに近い家族だからこそ言えた、弟からの厳しい劇薬ではないだろうか。

 

 


『いとしのソヨン』本当に面白い韓国ドラマであるす。

(文=平松相善)

 


次回予告

ドラマレビューシリーズその3 『千万回愛してます』