「韓国」が身近なものになり、私たちの日常生活に入り込んできた。

 

食べ物、旅、ドラマ、ポップス、化粧品、美容・・・。これらの分野において「韓国」は、さほど違和感なく受け入れられている。

 

それでもまだ未知・未開拓の分野があり、それが「韓国文学」だった。ところが最近は何やら様子が変わってきたようだ。

 

そう、確かに去年あたりから、日本での韓国文学の翻訳出版が活況を帯びている。そのあたりの事情を、最近に出た作品を紹介しながら述べていこう。

 

 

まず、最初に挙げたいのは、申京淑著『母をお願い』(集英社文庫)である。

 

 

 

 

この小説は韓国で2008年に刊行され、現在まで200万部に迫る大ベストセラーであり、すでに世界30か国あまりと出版契約を締結し、欧米諸国でも大きな話題を集めている。

 

行方不明になった母親(夫からは妻)をめぐって、家族それぞれの立場からの心境が重層的に描き出される。

 

母親は郷里にいるのが当然とされてきた。その母親が不在になって初めて、家族はそれぞれ自分が母親にどう向かい合ってきたかに思いを巡らす。

 

これは現代社会のどこにもあり得る話だから、誰しもが思い当たることだろう。淡々とした語り口でありながら、読み終えるとずしりとしたものが残り、「母さんに電話しよう!」という気持ちになってくる。

 

家族の中心だった母親が不治の病に罹り、それを巡る家族の反応を扱った作品が、ノ・ヒギョン著『この世でいちばん美しい別れ』(CUON)である。

 

夫は医師、娘と息子は青春の真っ盛り、専業主婦の母親が認知症の祖母の面倒をみているという設定で、そこに母親の末期がん宣告が襲いかかる。

 

 

 
 
これまで保たれてきた家族の絆はどうなるのか。こうした事態は私たちにとっても他人事ではない。作品は終始リアリティと緊張感を保ち、読者をとらえて放さない。作者は韓国で人気のドラマ作家、代表作には『愛の群像』『彼らが生きる世界』などがある。

 

 

この両作品を、韓国文学への理解を深めるための手がかりとしてお勧めしたい。不安を抱えながら、なんとかバランスを保ってきた家族が、「母親の不在」の発生によって(『母をお願い』の場合は、まだ不在ではないが)、いかに家族のバランスや絆が破壊されてしまうものなのか、家族それぞれの立場から克明に描き出されている。わが身の問題として考える際の参考にもなり、対応方法の日本と韓国のちがいを知ることで、韓国社会を知る幅を深めることにもなるだろう。